
バスでフランス人ガイドのおばさんが、地図を片手にカーンを出て、バイユーを経由し海岸陣地へ向かう旨を説明してくれました。(このカーン・バイユー間の幹線道路はカナダ軍の制圧ポイントでもありました。)
(フランス訛りの英語が、どことなく日本人のカタカナ英語っぽくて聞き取りやすかった笑)
カーンもバイユーもかなり海岸に近い都市であることが分かります。(つまり艦砲射撃圏内)

冬だったので枯れ木になっていますが、ノルマンディー地方特有の畑の生け垣であるボカージュ(Bocage)が多く見られました。
海岸地域のため防風林や畑の乾燥防止、薪の供給源といった様々な用途から植えられてきたものですが、戦中は防御戦闘にあたるドイツ軍がボカージュを利用した待ち伏せを行っていたとよく言われます。
(ゲーム『PANZER FRONT』をプレイした人ならば、アンブッシュやボカージュ越しの側面射撃でだいぶお世話になったのではないでしょうか笑)
こういうところでも「おおノルマンディーに来たんだ」と実感します。

ガイドさんを筆頭にぞろぞろと。
まずはオック岬(Pointe du Hoc)にやってきました。

さりげなくこういうモニュメントが置かれていたりします。
砲の形からして、フランス製K418 155mmカノン砲だと思われます。
第一次大戦時の砲ですが、フランス降伏後ドイツ軍に鹵獲され、多くは大西洋の壁に配備されました。

ドイツ軍の陣地略図
このフランス製重砲はオック岬にも対艦攻撃用に6門配置され、連合軍の航空偵察でもバンカーにそれらしきものが確認されたことから、アメリカ第2レンジャー大隊による攻略が企図されました。
オック岬はオマハビーチから3マイル西にあり、またオマハとユタの中間地点に位置する場所で、これらの重砲が両海岸を狙えることも連合軍の重大な懸案事項でした。

バンカー跡が見えてきます。


爆撃のクレーターが今も残っています。
これらのクレーターは、崖をよじ登ってきたレンジャー隊員が身を隠す場所にもなりました。

当時の爆撃の模様。
かなりの密度で爆撃されたことが分かります。

オック岬を爆撃するA-20ハヴォック
ただし爆撃そのものは4月25日にA-20が、5月には2回に分けてB-26によって、また6月にはD-dayの2日前からA-20、B-17、モスキート、ランカスター、B-26などによって連日爆撃が行われました。
さらに海からも戦艦テキサス以下、米英軍の艦船による艦砲射撃が行われました。


激しい砲爆撃のためでしょうか、半壊したバンカーが多かったです。

退避壕か連絡路があったのでしょうか。
これも一部原型をとどめている状態でした。

155mmカノン砲用のバンカー。
当時レンジャーが多数の犠牲を出しながら崖をよじ登ってみると、バンカーにあるはずの155mm砲は姿を消していました。
上陸前から頻繁に爆撃されたこともあり、155mmカノン砲も陣地を転換していたのでした。
(オック岬制圧から2時間後、第2レンジャーの斥候が岬から1マイル離れた場所に偽装されて放置されている5門の155mmカノン砲を発見し、これを確保しています。)

カノン砲用のバンカーには、今ではこのような展望台が設けられています。


最優先攻撃目標のバンカーだったと思われますが、ほとんどは原型をとどめていました。


連絡壕は一部崩落もしくは埋まっておりました。

おそらく上の陣地略図でいうと西側の対空陣地。
連絡壕とつながっていた場所のひとつです。
オック岬には2門の20mmFlak30高射機関砲が配備されていたようなので、もともとは機関砲が据えられていたのだと思われます。

こちらは対空陣地とは別の機関銃陣地用のバンカー

固有のマウントなどはなかったので、可搬型のマウントもしくは三脚などを用いたのでしょうか。
全周旋回できることから、20mm機関砲と共に対空戦闘にも使われたのかもしれません。

水が貯まっており排水設備に見えますが、手榴弾溝としての機能もあったのかもしれません。

海岸地帯より西を。
切り立った崖が続いていますが、奥の崖のさらに反対側がユタ・ビーチの方向になります。

オック岬の最先端になります。
特徴的な形の岩は今も現存しています。
第2レンジャーがこの30mもある高さの崖をよじ登るにあたっては、縄梯子やロケット発射式のカギ付きロープが使われましたが、ロンドン市消防局から拝借した伸縮式のはしごも投入されました。
映画"The Longest Day"(『史上最大の作戦』)でも登場した場所です。

岬の先端にあるバンカーには記念碑が展示され、内部見学ができるように整備されています。

錨の形をした記念碑にはレンジャーの功績を称える碑文が刻まれています。

バンカーを外側から。
映画ではバンカー内部から射撃してくるドイツ兵に対して、レンジャーが手榴弾で応戦するシーンが描かれていました。

バンカーの入り口を守る銃眼
CoD2をプレイした人ならば、これに苦しめられた人も多いのでは。
既視感を感じると思ったら、やはりCoD2のオック岬のミッションで最後に攻略する陣地だったからかもしれません。(内部構造はゲームと若干異なってましたが、CoD2での再現はそこそこ忠実だったように思います。)

バンカー内部にもさらに銃眼が設けられています。
ただ、これが使われる状況になってしまうと、陣地としてはもはや持ちこたえられそうにない状況だとは思いました。
(入り口を固めてもバンカーの開口部から手榴弾や火炎放射で攻撃されてしまうと・・・)

銃眼の銃座側にまわってみると、制圧された時のものかは分かりませんが、内壁に榴弾片の跡のようなものが多数残されていました。

内部はライトアップされています。

制圧時のものかは分かりませんが天井の木板も焼け焦げています。

バンカーより英仏海峡を臨む。
時期は冬でしたので季節感は異なりますが、上陸当時のような若干荒れた海面でした。
ここから連合軍の艦艇が迫ってくるのを目にしたドイツ兵はどのような心境だったのでしょうか。

つづく